母の日ということで、最近私が一緒に過ごした、とっても賞賛すべく献身的なお母さんの話をしたいと思います。ある意味悲しい話ではありますが、いろいろなことを思い出させてくれます。この地球上の生物がどれほど素晴らしいものかを。私たちがあまりにも周囲のことについて無知であるかを。そして、おそらく何よりも貴重な時間であるかを。
この物語について、私の住まいの近くでダイビングショップを経営している友人の戸井田静さんにデータや資料の収集を手伝ってもらいました。私が感じているこの覚えておくべき母親の価値観について、戸井田さんも共感してくれていると思っています。
この物語のタイトルは「追悼」です。(翻訳: Mihoko N.)
これは雌の東アジアタコ (Octopus sinensis) です。アジア全域で非常に一般的な種で、2016年までマダコと識別されています。(1)
実際、以下の生体を知るまではタコはそれほど注目されるものではないでしょう。青い血液、3つある心臓、分配された神経回路網、高度な知能、個性、変形する肌など。おっと、色素体もです!
何が特別なのかというと、このタコの後ろにある卵塊です。
温帯の他の多くの生物と同様に、このタコは繁殖期を自分らで調整します。特定のエリアに成熟したタコがいると、潜在的に高揚し交接する可能性が高くなります。温帯での繁殖のタイミングは、気温や潮流、食糧環境などの周囲条件にも影響されます。
マダコにとって、理想的な繁殖期は夏から秋にかかる数か月です。日本の海域での繁殖期になります。
しかしながら、この雌タコは冬に繁殖することにしました。
上の写真は2021年2月7日のものです。友人の戸井田さんが初めてこの抱卵を確認したのが2020年12月23日だそうです。
ご想像のとおり、この雌タコは良い母としてこの子供たちを守ろうします。雌タコは大きな岩の間にある小さな隙間の端っこに巣穴を作りました。そこに身体をちょうど納められる大きさの溝です。その溝の端につたった50㎝ほど後ろにある小さな位トンネルに、この雌タコはいました。最初は下がっていて、その後上部に戻っていきました。この雌タコをはっきり見るために、私10〜15度程下向きの角度でうつ伏せになり、頭を上げて見上げる体勢になりました。カイロプラクターの時の姿勢です。
雌タコは非常に防御しやすい場所を選んでいました。私にとっては理想的ではないですが、非常に優秀な戦略です。私にとっては、接面がV字型で厄介だったのだけではなく、付属機器がついたカメラの大きさとの比率が最適な撮影環境ではありませんでした。
私は身体をゆがめてみましたが、きちんとした撮影画角をとれたのは一回だけでした。その日、雌タコは巣窟で比較的前向きにいて、私のことは気にならなかったようです。私は、動くたびに小石や岩を崩さず、きちんとした撮影体勢がとれるように小石を移動させたりしました。雌タコは、巣穴の外で格闘・挑戦していたおバカな私のことを少し面白がっていたのではないかと思います。
その後、何度か同じ雌タコの巣穴を訪ねましたが、撮影するのはやめました。少なくとも私が知る限り、雌のマダコが冬の間に卵塊を孵化させることはおそらく難しいことだと思います。卵が孵化するにつれて、阻害物が少ないほど良いと思ったのです。
小さなカメラを使って撮影記録することは可能でしたが、それは戸井田さんの役目でした。
私たちは、それが何であれ記録し続け、その結果を文書化することが重要であると考えました。
1月には、ほんの数メートル離れたところに、別の抱卵した雌タコが居ました。しかし、その卵塊は最初から鈍くしぼんでいるように見えました。しぼんだ風船のようでした。
私が見た数日後にその別の雌タコは姿を消しました。何が起こったのかを確実に知る方法はありませんが、卵はなくなりその雌タコもどこにも見当たりませんでした。
繁殖期ではないこの時期に同じエリアで抱卵した2匹の雌タコが居たという事実により、私はこの記録を続けるべきだと強く決心しました。
なぜ雌タコはこの時期に抱卵していたのか? 同じエリアに2匹もいたのはなぜだったのだろうか? 卵が孵化した場合、生き残れるのだろうか? もし生き残った場合、この近隣の同胞とどのような関係になるのか?
ご参考までに、観測期間中の水温は14ºC~16ºCで、ほぼ毎日16ºC(約61ºF)まで上昇していました。戸井田さんによると、水温は前年より少し暖かかったが、特に珍しいことではないとのことです。
この1か所での長期記録がなければ、気温が要因であったかどうかを知ることは困難です。近年、他にも多くの奇妙な海洋現象があるように、水温を要因と考えることは容易ですが根拠のない発言をしたり、すぐに結論に至ることを警戒しています。
憶測することはは良いことです。なぜなら、創造的な思考を育み興味深いアイデアを思いつくからです。しかし、確実なデータをもって証明しない限り、誤解や完全な虚偽に至る可能性があります。
3月2日の日々の観察時に、戸井田さんは卵がいくつかが空になっていることに気づきました。おそらく、一部が孵化したようです。幼いマダコが同時に数匹成長するのは成熟するのは普通のことですが、実際に赤ちゃんマダコを見つけなければなりませんでした。
幸いなことに、3月8日、戸井田さんが小さな頭足類の1匹が出てきた瞬間を直面して記録することができました。
日々、数々の赤ちゃんマダコが孵化し成長しています。3月12日迄に、全部ではないですが大部分の赤ちゃんタコが居なくなりました。
一方で、私たちは喜びに満ちていました。お母さんマダコは逆行に打ち勝ちました。冬の間に大きな卵胞を育て孵化させました!
しかし、その反面、、
マダコの母親は卵が孵化した後に死にます。
もちろん私はこの事を知っていました。沿岸のタコでは通常な事です。しかし、どういうわけか雌タコを観察した数週間の間、私はそれを忘れていました。戸井田さんも同じだと思います。私たちは完全に卵と孵化に集中していました。
全部の赤ちゃんタコが孵化するまでは、その現実から逃避していました。当時、私はプロジェクトのために日本の別の場所におり、戸井田さんと次のようなメッセージ交換をしていました。
「すべての卵が孵化しました。やったぁ!」
「とても素晴らしいです、とっても嬉しいです! 雌ダコはやり遂げたんだね!」
「まだ冬ですが、この後どうなるんでしょうか。。?」
「分かりません。。」
「死んでしまうんでしょう。。?」
「はい、おそらく死んでしまうと思います。。死んで欲しくないけど、、泣いちゃいます。」
“そうだよね、、僕も泣いてしまうよ。”
僕たちは準備して、1週間が経った。雌タコは元気で力強かった。
2週間後、まだ元気に見えた。
そして3週間後の2021年3月27日同時刻。
私の印象では、全ての卵が孵化した後、雌ダコは短期間で死んでしまいます。3月末のこの時点で、雌ダコは3か月以上何も食べていなかった可能性があります。そして、その期間ずっと、一生懸命卵を保護し育てていました。
私たちのメッセージ交換は続きます。
「なんて素晴らしいんでしょう、雌ダコはまだ元気そうです。」
「国内の別の地域の友達に聞いたところ、通常卵が孵化したすぐ後に雌ダコは死んでしまうそうです。」
「もしかしたらこの雌ダコは生き延びるかもしれないって思いませんか?」
「つまり、通常の繁殖期まで生き延びるってことですか? もしそうだとしたら信じられないほど凄いことです!写真を見る限り、可能性が無きにしも非ずと思いますが、雌ダコはきちんと捕食できていないのではないでしょうか。。? 何故こんなに生き延びていられるんでしょうか。。?」
「死んでほしくないです。。」
「私もです。。」
そして、私たちは待ち続け、戸井田さんは日々報告してくれました。
あの雌タコは4月の前半になり衰弱の兆候が見られ始めましたが、警戒心が強く活発でした。
私たちは希望を持ち続けました。
しかし、4月10日に、戸井田さんが見たのは、腹足類軟体動物が雌ダコに寄生・捕食し始めました。
雌タコは死にかけていました。まだ生きていましたが、腹足類軟体動物がすでに雌タコの体肉を貪り始めていました。
全ての卵が孵化してから1か月後、もうどこにも雌ダコはいません。
その日に交換したメッセージはとても悲しいものでした。もし同じ場所に一緒にいたら、本当の涙を流していたでしょう。
私たちの雌タコであるお母さんマダコは、生殖周期と同期していませんでしたが、ついに最期の時を迎えました。
経過:
- 2020/12/23 最初の卵確認
- 2021/3/2 孵化開始
- 2021/3/8 孵化した子供のタコを確認
- 2021/3/12 全ての卵の孵化完了
- 2021/4/10 雌ダコの顕著な衰退、腹足類軟体動物による捕食
- 2021/4/12 ついに雌ダコはいなくなった
(1) Gleadall, Ian. (2016). Octopus sinensis d'Orbigny, 1841 (Cephalopoda: Octopodidae): Valid Species Name for the Commercially Valuable East Asian Common Octopus. Species Diversity. 21. 31-42. 10.12782/sd.21.1.031.